「オオカミのさがしもの」を読んだ話

やもい書房

「オオカミのさがしもの」透明いんげん 

読書の感想。

ゆるっとしたかわいい絵。真似して描けそうに見えるが真似できない難しい絵。単純そうな絵なのに何をしているかも表情も登場人物の書き分けも完璧。「絵が上手で作る話が面白い」両方揃わないと漫画家ってなれないんだなと思う。

透明いんげんさんはpixivでマンガを載せている。「自分が何者なのか迷いだすおじいさんの話」や「ヘンゼルとグレーテル」、「シンデレラ」など、私は童話を題材にした話が好き。ギャグに振り切ったものもあれば、数コマで考えさせられる話もある。童話を題材にしていない話でも「正論おじさん」や「ハロウィンの仮装」のような笑える話がたくさんある。pixiv見られる人は、ぜひ読んでみてほしい。

今回読んだ「オオカミのさがしもの」は考えさせられる話の方。もちろんおもしろい。狙い過ぎない、ほど良い笑いが全体に散りばめられている。オオカミは今のままの自分では悪役にすらなれないのでは?と自分の存在意義を探す旅に出る。どんな童話の中でも悪役・悪者にされがちなオオカミ。でもこの漫画の主人公のオオカミはとても良い子。うちの子よりも私よりも、そしてたぶんあなたよりも良い子。そんな気弱でお人好しなオオカミが「3匹の子ぶた」「赤ずきん」「オオカミ少年」「7匹の子山羊」の童話の中へと入っていく。一生懸命自分(悪役のオオカミ)の役を演じようとするけれど、なかなかうまくいかない。オオカミが良い子すぎるのはもちろん、登場人物たちも全員なんだか少し様子がおかしい・・・どの話も私たちが知っている結末にはならないのだ。

兄弟にはそれぞれ個性や向き不向きがあり、誰が誰より優れているとか劣っているとかはないのである。おばあさんには長い人生を生きてくる間に自身の中にあたため続けた「好き」や「夢」「情熱」がある。嘘つきも悪いオオカミもいなかった。モブとして登場する人、ヒーローとして登場する人、悪役として登場する人、それぞれに生きてきた時間ていうか歴史みたいなのがあるんだよなと考えてしまった。そこに主人公の良い子のオオカミが関わることで、すべてが良い方に転がっていくのがおもしろいのだ。

童話は幼い子供にも理解できるよう、「お話を単純に」「善悪をわかりやすく区別」しているのかなと思う。だからオオカミは悪い奴確定だし、噓つきは常に嘘をつき続け、出てくるおばあさんは本当にただの「おばあさん」。下手したら生まれた時からずっとおばあさんなのでは?ってくらいプロのおばあさん。劣っている兄は優秀な弟より秀でている部分は絶対になくて情けない兄でい続ける。こう考えてみるとわかりやすく簡単にするためとはいえ、童話って恐ろしいな。これ子どもに読ませていいのかしらね。

そうやって刷り込まれた事を信じ続けて人を傷つけてしまうこともある。主人公のオオカミは良い子ゆえに、自分のオオカミという立場をよくわかっている。どんな童話の中でも「オオカミの自分は脇役で悪役」と自分の立ち位置をわきまえているのだ。その考えを悪気なく童話の中で出会ったオオカミに話してしまったことで相手を傷つけてしまう。悪意がないからますます心が痛むけれど、その後の行動は勇気があるかっこいいオオカミだった。違うなぁ。もともと気弱なオオカミの行動だったから余計にかっこよかったのだ。

「お母さんなんだからこうしないと」「40歳超えたらこれはできない」自分にもオオカミにとっての「自分は脇役で悪役」という刷り込みがあるんだと思う。そして悪意なく他人にそれを押し付けているのだと思う。「毎日学校に行かないといけない」「テストでは良い結果を出す努力をしないといけない」「勉強しないといけない」「自分の好きなことばかりしていてはいけない」「嫌なことも我慢しないといけない」これらはみんな私が子どもに刷り込んでしまったものだと思う。私が私の親から刷り込まれて引き継がれたものもあるし、私が生きてきた反省を踏まえた上でのものもある。「おまえ何言ってんだ?」と言いたくなるものもあるけれど、すべてが間違いでもないと思っているんだけど。

帯にある「人生って何か成し遂げなくちゃいけないの?」という文章。どうなんだろう。みんなと同じじゃないことに不安になって何者かになる必要はないと思う。それはたぶん、何かを演じているだけで成し遂げたわけではないだろうし。自分が心から「好きだ」「楽しい」「これをやりたい」と思えることを続けていればいいのかもしれない。泉の女神さまの「たくさん遊んだことも今は無駄だったと思っていることも全部が君の物語の伏線なんだよ。」というセリフが、この漫画の中で一番好き。

「無駄な時間を過ごしてしまった。」「もったいなかったな。」とついつい後悔してしまいがちだけど全てが伏線だと思えたら自分を責めずに楽しめる。仮に何も成し遂げなくたって、楽しみながら幸せに人生を終えたなら、後悔はないと思う。私にとってこの本は読んだ時間も購入した金額も無駄にならない素晴らしい本だった。読み終わったけど手放さずにずっとそばに置いておくと思う。こういう本、小学校や中学校の図書室とか、図書館にも置いてあげればいいのに。漫画だからと侮ってはいけない本て世の中にはたくさんあるのにね。

表紙もかわいいです。おすすめです。

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