「失われたものたちの本」を読んだ話

読書感想文⑦です。

たしかメルカリで「10の奇妙な話」を買ったときに、おすすめに出てきて面白そうだと思って買いました。買った直後は読む気になれずに放置してあったのを最近引っ張り出してきて読みました。冒頭からちゃんと面白いのですよ。でもその時は、文庫本の小さな字を追う気になれず読まなかったのです。「いつか時間ができたら読もう」「いつか読む気になれたら読もう」そんな気持ちで本を買うのを慎もうと思っています。でもこの本に関しては買っておいて良かったです。なんだか本屋さんのオンラインで検索すると品薄みたいなのです。メルカリでの売値が高くなるのでなんとなくわかります。みんな抜け目ないなぁ。

以下ネタバレ注意

正直なんでもっと早く読まなかったんだ!?と悔やんでしまうくらい面白い本でした。私は大人が読む本が理解できない頭脳の持ち主ですが、「かいけつゾロリ」を楽しめる純粋さは残っていないレベルの人間です。この話を読んで思ったことは、現実や経験をもとにしているなら作者の住む世界が怖すぎるし、まったくの空想から生まれたなら想像力がすごい。すごすぎる。頭の中をのぞかせてほしいです。読むのが止められず仕事の休憩時間だけでなく歯磨き中や食事中など、いつもはスマホを見てる時間も読んでました。睡眠時間もちょびっと削りました。それでも数日かかるくらい、読み応えのある内容でした。

RPGのように「はじまりの森(仮)」的な所から、様々な村やお城を経由して王様のいるお城にたどり着けばお終いかと思いきやそんなことはなかったのです。木こりや騎士などに守られてばかりいた少年が機転を利かせて危機を乗り越えるところや自身を守るために武器を手にして人を殺めてしまうところ、自責の念に苦しむところが、自分の子の成長と自立を見守るようで手に汗を握りました。たぶんデイヴィッドが賢くなければこの物語は成り立たないと思います。強かったり勇気があるだけではこんなに面白くなかったでしょうね。

読んでる時には「母親が亡くなってそんなに経ってないのに再婚だなんて」と思っていました。だけどデイヴィッドが12歳ならまだ若いお父さんなのよね。そこから死ぬまで一人で生きるのは辛いか・・・とも思えるようになりました。でもなぁ・・・息子が一番めんどくさい年に再婚して子供まで作らなくてもねという気持ちは今でも持っています。継母と息子が揉めたなら息子の味方してやれよとも。お父さんが継母の味方しちゃったら子ども一人ぼっちじゃないのと。継母についても、デイヴィッドと仲良くしたい気持ちはあって、頑張って歩み寄っても心を開いてくれない子どもに産後の余裕のない時ならキレるよなと想像はできます。でもだったら子どものいる人なんか好きになっちゃだめよとも思うのです。

酷い家族に辛く当たられて、ますます亡くなったお母さんにすがりつくデイヴィッドは母親の声に導かれて幻の王国へ行きます。そこに出てくる登場人物たちも起こる出来事も少しもファンタジーな感じがしません。木こりや騎士など味方になってくれる良い人もいます。それが霞むくらい酷い目にあいます。服を着たオオカミに執拗に追い回され(こいつらは最後までしぶとかった)、サイコな狩人に動物の体にくっつけられそうになり村を救うために共に戦ったはずなのに何故か恨まれ、エピソードはまだまだありますが、なんか現実の方がマシなんじゃない?と思わざるをえない酷い場所なのです。でも第二次世界大戦下のイギリスが舞台なのだから現実も危ないですね。安心して穏やかに暮らせない世界って嫌だな。

「悪役はねじくれ男だな」という目星は最初からついていて、それは当たっていました。でも王国の成り立ちとかは想定外でした。王国はねじくれ男の口車にのって弟妹を差し出した子どもが王様になります。ねじくれ男は差し出された弟妹の心臓を食べて、その子の寿命を生きることができます。それがわかった時、だからこんな地獄みたいな場所なのかと納得もしました。子どもは純粋ではないこと、もしくは純粋ゆえに自分の嫉妬や妬みといった心の醜さを爆発させてしまうのかもしれません。だけど生きていれば一人や二人「いなくなればいいのに」と思ってしまう相手って大人だっているじゃありませんか。理屈抜きに怖いものだってあります。そういう人の心の弱さや醜さはとても恐ろしいものだと思いました。

ハッピーエンドです。でも人生って楽しいことや幸せばかりではないという現実的なハッピーエンドです。ファンタジーと現実のバランスがとれているのだと思います。表紙の絵も素敵です。ラストまで読んでから見るとさらに素敵。

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