「白ゆき紅ばら」を読んだ話

読書感想文④です。

寺地はるなさんの本です。最初から何だか不穏で怖いな~と思いながら読みすすめました。嫌な予感?後味の悪い嫌な話か?これ・・・みたいなゾワゾワ感が序盤から後半まで漂ってます。「川のほとりに立つ者は」にも「わたしの良い子」にも憎み切れない嫌な女性が出てきます。読んだ人が「嫌な奴だな」って思っても様々な事情や隠しきれない人間くささで嫌いになれない嫌な女性を書くのが上手なんですよね。今作はそれがこいつか?と思った人が出てきたけど、読みすすめてるとなんか違うのです。読者が物語の中に入れたらそいつの背後に回ってボッコボコにしてやりたい奴が出てくるのです。

またそれが自分の人生のどこかでいたなぁこういう人・・・って思えたり、自分はそうなってないか?って心配になる弱い者にしか強くなれない臆病で小さな悪党なんですよね。人間の弱さや狡さ、汚い部分がたくさん出てきます。でも寺地さんの文章だからスイスイ読めてしまいます。主人公が善人過ぎないのも良かったです。育ちのコンプレックスは私も持っているので共感できました。みんなが同じ条件の家に生まれ育つわけじゃないんですよね。どんな家に生まれるか、どの親から生まれるかは自分に何の責任もないのに、それによって選べる選択肢は限られるんです。この歳になれば公平も平等もないことは知ってるけれど、努力を要する場所に立つことすらできないって、やりきれない気持ちになりますね。

ただ一人、主人公を救い出してくれた学校の先生がかっこよかったです。

「良い子は天国へ行く。悪い子はどこへでも行ける。」

素晴らしい言葉ですよね。持たざる者にはどこへでも行って何にでもなれる自由があるのだと希望が持てる言葉でした。全体的に薄暗い物語の中でこの先生が出てくる部分だけは薄く日が差す程度の明るさがあります。

最後は暗い部屋の中で、光が入ってくる窓のカーテンを開けたみたいなクライマックスです。そんなことある?みたいなわけでも、読んだ時間返せ!って言いたくなるわけでもない、納得の最後でした。どんなものを見る目と考える頭脳があるとこんなお話が書けるようになるのでしょう。やはり素晴らしい作家だよなぁと憧れてしまいます。

終わりまで読むとこの表紙もメチャクチャ怖いです。素敵な絵なんですがね。

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