菰野江名さんの本よ。やさしい水色の表紙、花の絵に囲まれたイラストがステキよ。洋館の庭の満開の桜を眺める二人の女性の後ろ姿。髪がグレーなことで二人が若い女性でないことがわかるわ。裏表紙はおいなりさんとウグイスよ。無性においなりさんが食べたくなったわ。私が作る時は酢飯にゴマを入れるくらいだけど、この本に出てくるおいなりさんは具沢山なの。想像ではおそらくちらし寿司の酢飯をつめている感じよ。しかも手作りよ!おいなりさん食べたいわ~。作る面倒さに食欲が勝ったら作るわ。具沢山で油揚げに出汁がきいたおいなりさんをね。
おそらく主人公は桐子さんと百合子さんの姉妹じゃないかしら。各章ごとに語り手は変わるの。時代も変わるわ。1964年から2024年を行ったり来たりしてるの。語り手は桐子さん百合子さんはもちろん、役所の職員、その母親も加わるわ。リアルなDVの描写があるからトラウマ持ちの方は要注意かも。自己責任で読んでね。
桐子さんは強い女性ね。姉妹は戦争孤児よ。親戚の家をたらいまわしにされて肩身の狭い思いをし続けて、いつか妹と二人でのびのび暮らせる家を持つ夢を見るの。この人のすごいところは夢見るだけでなく叶えたところよ。未婚の女性への風当たりが強そうな時代にずっと働き続け、資産運用もして自立しているの。とてもかっこいいわ。こういう女性が戦い続けたから女性が働くことが当然の社会になってきたのかもしれないわね。でもなぁ昔は子どもを産んで家事をしていればよかったのに今はさらに働かされるのよ?水を差すようなことを言って申し訳ないけど男性に子どもが産めない時点で女性の負担が増しただけだと私は思うのよね。それでも本の中にも自分で働いていたからこそDV夫と離れて自立して自由になれた人もいるのよ。自分の母親と重ねて考えてしまったわ。おそらくうちの母親だって手に職があって自立できるなら離婚していたんじゃないかしら。父親の愚痴を言ってる母親に「そんなに嫌なら離婚すればいいのに」と言ったら「私の稼ぎじゃ子どもを育てられないし生きていけないから我慢するしかない」と言われて子どもながらに、なんて惨めで哀れでかわいそうな生き物なんだろうって思ったわ。今の自分が同じ道を辿っているのが笑えるんだけどね。桐子さんみたいな女性たちが戦い続けたからこそ、離婚したって女性が働ける環境が整ってきたのかもしれないわ。もちろんまだまだ十分ではないんだろうけど。
妹の百合子さんはまた違う強さを持った女性だわ。桐子さんが折れない鋼のような強さだとすると百合子さんは柔らかな柳の枝とか環境によって形を変えられる水みたいな強さかしらね。思い通りの人生を生きられなくても与えられた環境に適応して幸せを見出すしなやかな強さがあるわ。姉妹だけど人柄も何もかも風と共に去りぬで言えばスカーレットとメラニーくらい真逆よ。スカーレットには男性を手玉にとれるしたたかさがあるから、正確には桐子さんとは大分違うんだけどね。例えよ例え。ちなみに百合子さんは結婚しているわ。その結婚もねぇ。ネタバレはどうかと思うから言わないけど、よくそこで幸せを見出したねと感心したわ。最初からはっきり書かれていないから途中までこの姉妹やべえ奴らか?と心配したけど大丈夫。主人公に値する良い人達よ。百合子さんの自分の人生への諦め?と姉への思いが切ないわ。いくつもの、ここで違うことを選んでいたらどうなっていただろうポイントが出てきて本の登場人物の人生と思えなかったの。おもしろくてやめられなくて朝の4時までかかって一気に読んだんだけどね知らない人生を生きなおしてるみたいでとても疲れたわ。朝まで起きてたせいもあるでしょうけどね。でも私はこの姉妹の人生はこの本の通りで良かったんじゃないかって思うわよ。仮に桐子さんが結婚していたら百合子さんはずっと自分を責め続けるんじゃないかしら。かといって桐子さんのために戦い続ける強さは百合子さんにはないと思うの。桐子さんの強さと百合子さんの強さは種類が違うのよ。
お互いに大切に思いあって相手の幸せを願っているのよ。憧れる姉妹愛だわ。そのかげでお互いに自分のせいで相手に大変なものを背負わせてしまったという罪悪感にも苛まれているの。百合子さんの言う通り誰も悪くないのよ。誰もが必死に生きていて幸せになりたいだけなんだもの。本を読んで遠くから全体を眺めている私は今はそう言えるわ。でもいざ自分が当事者としてそこにいたとしたら同じセリフが言えるのかしら。たぶん無理だわ。桐子さんみたいに戦い続ける強さもないのに誰かの責任を追及して恨んだり憎んだりして百合子さんのように与えられた環境の中に楽しさや幸せを見出すこともできないのよ。百合子さんはね、この話の中でずーっと誰かのお世話をしてるの。でもそれでもいいんですって。一人でいる寂しさに比べたら誰かの面倒を見る方がいいんだって。私は寂しいのは嫌だけど他人の面倒なんてごめんだわ。あれ?私って最低じゃない?と気づかされたわよ。
何というのか各章のつながりがすごいのよ。よく読むと君ここにもいたんかって人が出てきたりするわ。伏線なのかな。それを感じさせないくらい自然にみんなの人生がつながっているの。何人もの人生を一気に疑似体験した気分よ。ドキドキハラハラする展開があるわけでもないのに一気読みした私の気持ち、読み始めたらわかってもらえるはずよ。人との縁の大切さや、逃げる勇気、自分や大切な人を守るために戦う強さ、与えられた環境に喜びを見出すしなやかさ、読む人や読む時によって得られるものは変わると思うの。とてもステキな本よ。ぜひ読んでみてちょうだいね。
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