読書感想文の話⑧

やもい書房

虫とけものと家族たち ジェラルド・ダレル

ずいぶん前に購入して本棚で温め続けてきた本です。森見登美彦さんの「夜は短し歩けよ乙女」を読んで読みたくなり購入した本です。

主人公であり語り手であるジェリーは作者自身らしいですね。ムリに一言にまとめようと思えば文章力の高い小学生の楽しい夏休みの日記を読ませてもらっているようでした。コルフという島にいた5年間の話だからもちろん冬の話もありましたよ。例えばです。あえて言うならです。

虫や動物など生き物に目がないジェリー少年にとって自然豊かなコルフ島での暮らしは天国だったのでしょう。様々な生き物の様子が詳細に書かれていますが虫が嫌いな私が読んでも「オエー・・・」とならないのが不思議でした。書き方なのかしらね。

虫やけものよりも個性的でおもしろいのは彼の家族たちです。

まず長男のラリー。心の狭い私は彼と暮らすことは無理だろうなと思いました。こういう手は出さないのに口だけ挟んでくる人は苦手なのです。でも彼がいなければコルフ島への移住も愉快な友人たちとの出会いもなく、この楽しいお話も生まれなかったのです。そう考えれば彼は功労者なのかもしれませんね。現実で一緒に暮らすのはごめんですが本の中の登場人物として読者の立場で接するなら物語を面白くしてくれる楽しい人物です。

次男のレズリー。こんなお兄さんならほしかったです。銃器マニアで泥棒を追い払うための怖い仕掛けとか作ってしまう人です。しかし弟のためにボートを作ってくれたり、お母さんがお付き合いを反対するような人とのお出かけについてきてくれたり、とても良いお兄さんです。

長女のマーゴ。良い意味でフワフワした優しいお姉さんです。流されやすい素直な女の子だと思いました。失恋の傷を癒しにボートで一人で出かけて、帰りに海が大荒れで帰ってこられるのか?というエピソードはドキドキしました。女の子が他にいないからなのか、十歳の男の子の弟目線で描かれているからか、女の子の嫌なところが薄くて(むしろ無い?)好ましい性質のお嬢さんです。

お母さん。今登場人物の紹介を読んで知りましたが未亡人らしいです。父親の影は一切ないです。読みながらずっと「この一家はどうやって生計を立てているのだ?」と不思議に思っていました。保険金とかなのかしら。とにかくラリーに振り回され過ぎだと思います。3回目の引っ越しを提案され「絶対に引っ越しません!」と言った次の章が新しい家の紹介から始まったりします。しっかりしなさいよと思いながら読んでいましたが、一人で見知らぬ土地で4人の子どもを守っているんですから私より全然しっかりしてますね。虫やら鳥やら様々な生き物を家につれてくるジェリーにも寛大で優しいお母さんです。私ならサソリの時点でキレてる。大らかで優しいお母さんに育てられたから彼は自分の好きを追及してこんな楽しい本を書けたのでしょう。今更遅いかもしれないけど、私も子どもの好きや楽しいを潰してしまわないように気をつけようと反省しました。

そして犬のロジャー。紐をつけて散歩している様子はないけどジェリーのそばから離れず、かといって邪魔もせず。最高の相棒だと思います。

他にも愉快な友人たちがたくさん出てきます。私はセオドアが好きです。人物関連のエピソードは会社の昼休みに読むと笑いをこらえるのが苦しいレベルで面白いです。あとはたくさんの生き物たち。窓辺のヤモリの話が臨場感があって手に汗にぎります。森見登美彦さんの書いた帯には”ヘンテコにして素晴らしき本。クヨクヨしがちな時に読むとアタマの天窓が開きます。虫よりもけものよりもワイルドなのは「家族たち」でした。”とあります。きっと十歳の子どもの目線で語られているから余計なモヤモヤがなく、いつどこを読んでも楽しいお話なんですね。読み終わってしまうのが惜しくて16章まで読んで少し止まっていましたが読み終わっても楽しい余韻に浸れました。

シリーズの「鳥とけものと親類たち」「風とけものと友人たち」も読みたいです。でももう図書館にもないのです。だから中古市場で値上がりしているのでしょうね。中公文庫から出してくれないかな。絶対買う人多そうなのに。

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